2023年4月12日に1万を超える皆様による署名のおかげで作品が返還されました。そこからラッピングシートの剥離作業を始めて約5ヶ月。ようやく剥離が完了しました。
作品の改変が発覚したのは1年少し前。強力な接着用下地剤が作品表面についた状態のまま、返還までに約7ヶ月の時間を要したために、剥離作業は難航しました。
ラッピングシート接着には下地剤としてダイノックプライマーが使用されました。このプライマーは時間の経過とともに接着力を増す特性を持っています。
ラッピングシートと作品の接着が強く、無理に剥離を進めると作品の塗膜ごと剥がれてしまう恐れがありました。小さな面積ごとにヒートガンで温めながら剥離作業を行うという工程を約5ヶ月に渡り繰り返しました。
それでも、やはり何箇所かは塗膜ごと剥離してしまいました。
また、剥離作業を進めていく中で、カッターナイフによって付けられたと思われる、数多くの傷を目にすることになりました。おそらく、ラッピングフィルムを貼る際に継ぎ目のラインを整えるために、作品に直接カッターナイフを当ててフィルムをカットしたものだと思われます。
このような、明らかに傷が残る工法での改変を行なっていることから、作品を元の姿に戻すことを一切想定していない、不可逆的な改変が行われたのだということを、改めて感じながら剥離を行う日々でした。
外見的な改変行為のみならず、「改変の際に刻まれた作品に対する物理的なダメージを自ら確認する」という、辛く厳しい作業が続きました。
ラッピングフィルムを剥がした後で、作品表面に残ったダイノックプライマーを除去する必要がありました。800番という比較的細かい番手のサンディングフィルム(紙やすりのようなもの)を使って、作品の塗装に深い傷を入れないよう細心の注意を払いながら、丁寧に研磨してプライマーの除去を行いました。
これまで長く作品を制作してきましたが、当然のことながら、このような作業を経験したことはありません。ラッピングシートの貼り付けを行ったのは見ず知らずの他人なので、作品に対してどこで何をされているかわかりません。そのために時には想像力も働かせつつ、慎重に進める必要がありました。作品に更なるダメージを与えないように、試行錯誤をしながら、慣れない作業を継続してきました。
作品の返還のためにいただいた1万超に渡る署名や、SNSで頂いた多くのコメントなど、たくさんの方からの応援が心の支えになりました。
作品修復は剥離が終わっただけで、まだ折り返し地点ではありますが、今一度、御礼申し上げます。
これから改めて作品に加えられたダメージ状態の記録をとり、傷つけられた作品の修復作業に入っていこうと思います。